飛行機が嫌いな果物
のっけから紛らわしいタイトルですが 飛行機に運ぶ荷物の好き嫌いがある筈が有りません。
航空貨物取り扱いの経験ある小生は 動物、生きた貝、花、野菜、危険物から人間の死体まで
取り扱った事が有り 飛行機はルールさえ守れば何でも運べるというのが常識です。そう言え
ば当時の仕事仲間が飛行機嫌いで 航空貨物を毎日集めていながら“あんな大きくて重いもの
が空を飛ぶわけがない”と言っていましたが まさか果物が飛行機は嫌いだと口を利く訳では
ありません。
東南アジア旅行の経験がある方はもうお分かりでしょう そうドリアンです。何処の飛行機
会社もドリアンだけは運んでくれません。ドリアンは果物の王様と言われ 一度その味を知る
と病みつきになると言われています。チーズと甘いサツマイモを合わせたようなこってりとし
た味は 確かに美味い果物です。 問題はドリアンの放つなんとも言えない強烈な悪臭にあり
ます。この国の人に聞けば99%の人がドリアンは好きだが この匂いは嫌いだと答えるでし
ょう。
大分昔 ドリアンを帰宅途中に道端で買って家に持って帰り その味を堪能したまでは良か
ったのですが 数日後助手席に乗せた友人に”石田さん (今)何処でドリアン買ったの?“と
言われ驚いたものでした。それ程この匂いは中途半端ではありません。ドリアンは通常街道沿
いにバンや軽トラックで良く売られています。近年ではスーパーでも売られていますが何処の
スーパーでも 売り場は出口付近の外側と決まっています。空港の荷物検査ではドリアンが発
見されたら即拒否されます。実は小生もその一人で日本に一時帰国の際 田舎の連中に話の種
に丁度良いと思いドリアンを買い求め 航空会社の人に見つからないよう新聞紙とサランナ
ップにビニール袋で完全装備 意気揚々と空港に出かけたまでは良かったのですが、結果は空
港に送ってくれたスタッフに 持ち帰って食べるよう言わざるを得ないと言う何とも情けない
結末でした。飛行機が嫌いな果物とは 正にこのドリアンのことです。
この国マレーシアに駐在して来た当初 多くのローカルより“石田さんドリアンをもう食べ
たか? 美味しいよ〜。”と何度も言われました。少生はどちらかと言えば好奇心の旺盛な
方だし 新し物好きな方ですが(小生静岡生まれで 静岡はいつも新製品のパイロット地域
にされている−静岡で売れなければその新商品はボツになるらしい)このドリアンが食べら
れるようになるまで少々時間を要しました。
ある日 今は別れたかみさんと買い物に出かけた折 ものはためしとばかり最上段に陳列し
てあった高そうな一個を買い いそいそと家に帰ってさあ一口とまでは良かったのですが
後がいけません。結局残りはかみさんが 勿体ないと一人で無理やりお腹に納めたようでした。
ドリアンは普通バレーボール程の大きさで 表面はパイナップルのトゲを極端に鋭くしたよ
うになっており 少しだけ楕円形の形をしています・ トゲの隙間の微かなスジに 出刃を
刺しこじ開けると 一室ごとに黄色い果肉のたっぷり付いた二、三個の種が出てきます。こ
れを口の中に放り込み食べます。 一個で縦に4−5室ありこのこじ開け作業に少しコツが
あり 当初は少々てこずったものでした。 通常一個は三キロ程で種込みでドンブリ一杯ほ
どの果肉が出てきます。 ちなみにお値段は一個5,6百円といったところですが 現在ロ
ーカルの昼飯代が百五十〜二百円位ですから 日本ならさしずめ一個二千円の高級メロンと
いった感覚でしょう。
それから一週間位経ったある日無理して食べた筈のかみさんの口から“ドリアンが食べたい”
と漏れました。その時は別に気にもしませんでしたが ある日ローカルのテニス仲間から
奥さんはドリアンが好きかと尋ねられ 英語がまだ良く話せない彼女は思わずOK、OKと
答えてしまいました。多分美味しいけど匂いがねえ とでも言いたかったのでしょう。この
会話から話がトントン拍子に進み 彼女の為に日曜日にドリアン狩りに行く事になりました。
仲間のボーイフレンドの運転するジープの後を 私とかみさんはのこのこと追従 しました。
輪だちだけを残しあとは草茫々の一本道をトロトロと ひたすら東の方向マレー半島中央の
山間部へと向かいました。時折小さな集落があり 粗末な店が訳の分からない食物などを売
っていました。その時は昼飯はこんな所で我慢するしかないのかと覚悟をきめたものでした。
二時間程走りそろそろ昼食という時間になりましたが 前の車は一向に止まる気配が有り
ません。モトローラのバカでかい携帯の時代でしたし 仕事以外に必要無いと持参しません
でしたので彼に連絡も取れず “昼ご飯は何時、何処で”と思いながらひたすら運転し続け
ました。
突然プランテーションの入口に差し掛かると 前の車は中にどんどん入って行きました。
ドリアンを買った後何処か食事の出来る所に案内してくれるだろう と思いながら後につい
て行きました。農場の主人はいくつもの大きな竹篭の中から 品定めの為ドリアンを割り彼ら
に味見をさせていました。彼は農場の主人と何か話をしながら 持参した麻袋に次々と放り込
んでいました。持参した麻袋三枚が一杯になると 彼は木陰に割ったドリアンを集め座り込み
ました。そして“さあ石田さん食べましょう”と言うではありませんか。直射日光の下で長い
間立っていたこともあって空腹は極限に達し 匂いなど構って居られず出されたドリアンを
思わず次々と口の中に放り込みました。お腹が膨らむと今度は主人が敷地内の果物を振舞って
くれ 昼食の事などすっかり忘れ満足して帰途に就きました。これが小生のドリアンとの付き
合いの始まりです。以来食べる時は匂いは気にならなくなりました。“空腹は最大のご馳走で
ある”とは良く言ったものです。
何故この国の大多数がドリアンを食べられ ここに滞在する日本人は半分位しか食べられ
ないか、これを切っ掛けに判りました。つまり普通この国の人は幼児の頃親からドリアンを
口に放り込まれます。幼児ですから匂いがどうのこうのと考える前に甘い味を知ってしまい
大人になっても何の抵抗もなく食べ続けるのだと思います。残り物をもったいないと後から
平らげる主婦の習性が 小生より余り抵抗なくドリアンと付き合い始めた理由のようです。
この国の人は日本人が魚を生で食べる事を知っていますが“刺身は美味いよ”と言うと顔を
しかめます。生で魚や野菜を食べない習慣の人々にとって 食材に火を通さないのは考える
だけでも気持ちの悪いことなのでしょう。大部分の日本人は赤ん坊の頃からお母さんの膝の
上で刺身を食べさせられていますから 大人になっても何の抵抗もないのでしょう。
追記: 食べ物に関する話題は次回も予定します。
石田 勝 マレーシア住在
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石田さんのマレーシア便り Buck No.